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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)74号 判決 1953年12月28日

栃木県河内郡吉田村大字絹板六一〇番地

上告人

藤沼藤七郎

栃木県宇都宮市塙田町

被上告人

栃木県知事 小平重吉

右当事者間の買収令書無効確認事件について、東京高等裁判所が昭和二五年二月一四日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人藤沼藤七郎の上告理由について。

職権を以て調査するに、本訴請求は、被上告人が昭和二三年一二月二日上告人に対して発行した買収令書中栃木県河内郡吉田村大字絹板字河原田五三四番畑一反三畝一三歩に関する部分の無効なることを確認する旨の判決を求めるというのである。しかし、証書そのものの無効であるということは事実関係であり法律関係自体でないこと勿論であつて、しかも事実関係の確認を求める訴は民訴二二五条の如く法律に別段の規定ある場合に限り許さるべきであるから、かかる特別の規定なき本訴の如きはその不適法なること多言を要しないところである。それ故論旨につき一々説明するまでもなく本訴請求を許さるべきものでないとして排斥した原判決は結局相当であつて、論旨は採用に値しない。(上告人が本件買収令書記載の買収処分の無効を主張するものでなく、又証書の成立の真否を云々するものでもないことは、本件訴訟の経過に鑑みその主張自体で容易に看取することができる。すなわち、上告人ははじめ被上告人が上告人にその所有にかかる本件農地を含む昭和二三年一二月二日附買収令書を交付したのに対し、右農地が自作地であることを主張して該買収処分の取消を求めるため昭和二四年三月二二日本訴を提起したところ、被上告人は右上告人の主張を認め同年五月六日附買収令書修正通知書を上告人に交付し前の買収処分を修正したのである。かくして前示買収処分取消の目的を遂げた上告人は訴の変更をなし、従前の請求をやめ本件買収令書に「訴訟法上ノ実体的証拠力」なきことを主張してこれが無効確認を求めるに至つたのである。かかる訴訟の経過に照らし本件訴旨が前説示の如くであることは自ら明らかである。)なお追加上告理由書は期間後の提出にかかるから判断を加えない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

昭和二五年(オ)第七四号

上告人 藤沼藤七郎

被上告人 栃木県知事 小平重吉

上告人ノ上告理由

原判決ハ本件買収令書ノ記載ハ法律上無意義デアツテ何等控訴人ノ権利義務ニ影響ヲ及ボスモノデハナイ云々本訴請求ハ無効確認ヲ求メルニツキ必要ナ法律上ノ利益ガアルモノト考ヘラレナイカラ失当デアルト判示シタリ然レドモ本件買収令書ノ交付ニ因ル買収処分ガ結局無効ナルコトハ被上告人ノ認ムルトコロニシテ但争点ハ其訴訟法上ノ実体的証拠力ノ存否ニ関スルモノナルハ本件口頭弁論調書ニ拠リ明カニシテ本件買収令書ノ公文書トシテノ訴訟法上ノ実質的証拠力ハ仮令其記載事項ノ実体的効力ガ反対ノ事実ニ依リ抹殺セラルヽトモ其証拠法上ノ効力其自体ニハ影響ヲ及ボサヾルヲ以テ(シタイン裁判官ノ私ノ認識ニ就テ一八九三年版、松岡博士民事証拠論第五章第三節六証書ノ評価五七二頁以下、シタイン独逸民事訴訟法註釈第四百十五条Ⅲ末項乃至第四百十九条及大審院大正十五年(オ)第三三二号同年五月廿一日第二民事部判決御参照)係争証拠問題ヲ判決ニ依リ確定スルコトニ因リ当事者、承継人其他関係ノ行政庁ヲ拘束スル既判力ノ法律上ノ効力ヲ生ズルコトハ民事訴訟法第二百一条行政事件訴訟特例法第十二条ニ照シ疑ナキトコロナルヲ以テ本件買収令書ノ無効確認ヲ求ムルハ夫自体ニ於テ法律上即時ニ確定スベキ利益ヲ有スルモノト解スルヲ妨ゲズ(シタイン独逸民事訴訟法註釈第二百五十六条Ⅲ、3御参照)

若シ夫レ本件第一、二審口頭弁論調書ニ依レバ被上告人ヨリ上告人ニ対シ自作農創設特別措置法第三条ノ規定ニヨル昭和廿三年十二月二日附発行ノ買収令書ガ交付サレタ事実及右買収令書ニハ買収土地ノ内ニ本件土地ガ記載シテアルコトハ当事者間ニ争ナキトコロナルヲ以テ本件土地ヲ含ム買収計画ガ一旦吉田村農地委員会ニ於テ議決セラレタル事実ハ完全ニ立証セラレタルモノト謂ハザルベカラズ然ルニ原判決ハ被上告人ガ原審ニ於テ一面ニハ本件農地ヲ含ム買収計画ハ昭和廿三年十二月廿二日吉田村農地委員会ニヨリ承認セラレ云々他ノ一面ニ於テハ原処分タル農地買収計画モ本件農地ヲ含マナカツタ云々ト相矛盾セル主張ヲ為シタルコトハ原判決ノ引用スル第一審判決事実摘示、本件第一、二審口頭弁論調書、記録添附ノ昭和廿四年六月三日附被上告人提出準備書面其他第一審判決理由中ニ於ケル判示ニ徴シ明白ナルニ拘ラズ其不明瞭ナル申立ヲ釈明セシメズ其他訴訟手続ニ違背シテ迄モ吉田村農地委員会ハ昭和廿三年十二月廿二日控訴人所有ノ土地ニ対シ買収計画ヲ樹立スル際本件土地ハ調停ニ繋属シ控訴人ノ自作地デアルコトガ判明シテ居タノデ買収計画カラ除外シソノ他ノ控訴人所有土地ニツイテ買収計画ヲ樹立シ云々本件買収令書ノ交付ニ因ル行政処分ハ取消ニヨリ消滅云々ト説明シタルハ有害無益ノ蛇足ナリ何トナレバ職権調査事項ニ属セザル本件買収令書ノ記載ガ無効ナルコトニ付相手於ノ自白アル以上証拠ニ基キ認定ヲ下ス必要ナキコトハ民事訴訟法第二百五十七条ノ明定スル所ナレバナリ

以上

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